狂犬病予防接種見直し論報道に係る狂犬病予防接種に関する見解

狂犬病予防接種に関しては、度々、新聞等で様々な報道がされ、今回も狂犬病予防接種の見直し論が新聞に掲載されました。狂犬病予防注射の接種義務については、大前提として、獣医師の収入確保や獣医師会の運営資金のためではなく、また、犬の感染を防ぐことが主目的ではなく、人への感染を防ぐ目的で犬への接種を義務付けていることです。すなわち、人の防疫が目的であり、そのために、厚生労働省が実施している事業であり、獣医師は、その事業に協力している立場です。接種義務見直しの議論においては、獣医師が主体となって義務化している
ことのようになっているのは、国(厚生労働省)が実施している事業に協力している獣医師の立場が十分に理解されていないと考えています。
狂犬病予防注射の接種義務のみを議論するのではなく、60 年以上国内での感染発症がない狂犬病清浄国である日本において、人獣共通感染症である狂犬病という感染症の防疫体制をどのように構築するかが、本来の議論の主体となるべきことであり、医療・獣医療・動物輸入・動物検疫・野生動物等の広範囲の分野で総合的に防疫体制を検討する必要性があると考えています。

60 年以上日本国内での感染発症の報告はないので、海外からのウイルス侵入を防ぎ、国内にウイルスが侵入した時に備えて人への一番の感染動物である犬への狂犬病予防注射の接種を義務化して封じ込め、過去に発生があった時代のウイルスが野生動物の中で存在していないかをモニタリング調査することが狂犬病防疫体制と考えていますが、年間数十万頭の生きた哺乳類が輸入され、動物検疫において狂犬病対象動物が犬・猫・キツネ等に限定され、ロシア船等からの犬の不法上陸や野生動物の密輸入が横行している現状では、海外から狂犬病ウイルスが侵入することを確実に防ぐことは難しいと考えられ、狂犬病予防注射の接種率が低下していることから有効な封じ込めができるかも疑問であると考えられます。また、野生動物のモニタリング調査が実施されていない現状では、台湾での事例のように日本国内に狂犬病ウイルスが存在しないと確定することができません。狂犬病予防接種見直しの議論においては、義務化を廃止することではなく、接種率を上げること、動物輸入の方針、動物検疫、猫への狂犬病予防接種、野生動物の調査、狂犬病の正しい知識を国民に啓蒙する等の強化策を議論するべきであると考えています。

発症すればほぼ 100%死亡する感染症である狂犬病は、感染が疑われたら発病までの間に抗体を産生して発病を抑える暴露後免疫しか対応策はないので、暴露後ワクチン接種を実施するのですが、海外においては、免疫グロブリン接種も併用されますが、日本では免疫グロブリンが存在しません。また、抗体検査等の感染を確認する有効な検査も存在しません。有効な治療法があるから感染を心配する必要がないといったようなことを言える感染症ではなく、感染の疑いがあればリスクがあっても暴露後免疫のためのワクチン接種を実施するしかないのが現状です。このことからも、感染が起こらないように感染動物となる可能性が最も高い犬への予防注射接種義務は必要であると考えています。

海外の清浄国では接種義務が実施されていないという点では、輸入動物・動物検疫・個体管理・野生動物のモニタリング調査等の違いがあるで、日本においても接種義務を廃止するという方向は慎重に議論するべきと考えています。また、口蹄疫・豚コレラ・高病原性鳥インフルエンザ等の家畜防疫においては、ワクチン接種を実施していると清浄国にはなれませんが、狂犬病に関しては、家畜防疫という視点ではなく、人の免疫という視点で議論する必要があると考えています。狂犬病予防接種見直し論に対する一般社団法人日本小動物獣医師会の見解としては、狂犬病ウイルスの国内への侵入を確実に防ぐことができない状況で、有効な狂犬病ウイルス感染を検査する方法がなく、発症を抑制する方法も不十分であれば、BSE 感染牛が確認された時に、国民が一人も感染しないために全頭検査を実施したことと同様に、一人の国民も狂犬病ウイルスに感染しないために犬への狂犬病予防注射の接種を義務付け、目標の接種率を達成できるように努力する必要があると考え、国民の狂犬病に対する、「すでに発生がなくなった過去の疾病」というような認識も変えていく必要があると考えています。

総合的な狂犬病防疫体制は国が構築するものですが、狂犬病ウイルスの侵入を防ぐための動物輸入に関しては農林水産省、国内での人への感染を防ぐのは厚生労働省、野生動物に関することは環境省と担当部署が複数となるために、各省庁が協力して対策を検討する必要があると思います。一般社団法人日本小動物獣医師会としては、犬への狂犬病予防注射接種義務のみを議論しても、総合的な狂犬病防疫体制を構築することは不可能であると考えています。

狂犬病予防接種見直し論報道に係る狂犬病予防接種に関する見解
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